アンティークジュエリー物語n.61
イタリアのダンディ
ガブリエーレ・ダヌンツィオ

今回は、20世紀初頭のイタリアの詩人で文筆家のガブリエーレ・ダヌンツィオをご紹介致します。

ダヌンツィオは1863年にイタリア中部のペスカーラの大地主の家に生まれ、ヨーロッパ、アメリカで読まれた国際的な作家で、日本でも森鴎外や夏目漱石などの明治の文豪達にも影響を与えています。

作家でありながら第一次世界大戦の英雄そして政治家で、1900年始めにはまだ珍しかった車や飛行機を操縦し、メディアとも大いに関わるなど、最先端の思想を持っていました。

その上女性と犬を愛した当時から有名なダンディで、生誕150周年には、ファッションの回顧展が開かれ、イタリアでは記念コインや切手が発行されたほどです。

こちらは子供時代のダヌンツィオ、大人顔負けのポーズで、すでに将来が伺えますね。


多才な文化人のダヌンツィオは、今もイタリアン・ダンディの生みの親と言われています。
西欧人にしては小柄だったのですが、貴族的でシック、趣味の良い服装を土台に、大胆な色や素材で遊び心を取り入れた先駆的なファッションも好んでいました。

この画像ではダヌンツィオの定番、ダイヤモンドをオニキスで取り囲んだカフスボタンをつけ、フラワーホールへ梔子の花を挿しています。
初夏の装いでしょうか、白い花と白い輝きのダイヤモンドが涼やかです。


なんとダイヤモンドは一つのボタンに1石をセットしている贅沢さ、ありそうでない、大胆なカフスボタンです。

また華やかな女性関係も有名で、特にロシアのバレエダンサー、イーダ・ルビンスタインを愛し、彼女のために舞台劇を書きました。
こちらの画像は散歩する二人、夏のカンカン帽がお洒落ですね、

ダヌンツィオはバルモラルブーツと言われる靴が好きで、スーツ1着に靴1足だったそうですから、その数は驚くほどだったことでしょう。


ちなみにバルモラルブーツとは 、1853年に英国のヴィクトリア女王の夫君アルバート公が名付け親のショートブーツで、公のスコットランドのバルモラル城の名をつけ、主に英国で呼ばれるようになりました。


19世紀の靴はほとんどがショートかロングのブーツで、ヨーロッパでは英国趣味が男性服の基本になっていましたから、お洒落なダヌンツィオが靴はクラシックなバルモラルブーツで揃えていたのもうなづけます。

また彼の犬好きは有名で、多いときは10頭を超え飼っていましたし、現代でもこのような彼の写真に、ファッションのインスピレーションを受けるデザイナーも多いようです。


下の画像では、リングと、ジャケットの襟にブローチを着けていますが、ダヌンツィオの着けているのは彼が好きだったダイヤモンドでしょうか、白く輝いています。

当時の大変お洒落な男性のための宝石や彫金、エマイユなどで装飾したラペル(襟)ホール用ブローチというジュエリーがあり、形は、幾何学的なもの、動物、シンプルなもの等でした。


1938年に逝去するまで、晩年はイタリア北部の風光明媚なガルダ湖のそばの邸宅で過ごしました。

今は博物館で、膨大な美術コレクションやインテリア、書庫が当時のまま展示されています。
文筆に、政治に、思想家として、稀代の天才と言われるガブリエーレ・ダヌンツィオは、現代的なイタリアン・ダンディの先駆者でもありました。

ルネサンス文化を生んだイタリア人らしい艶やさがダヌンツィオの魅力でしょうか。

◁ n.62 マリアノ・フォルチュニ       n.60 蝶 ▷

ページの先頭へ