アンティークジュエリー物語n.6
五感の絵
印象派のデコルテ

19世紀中頃からフランスで始まった「 印象派 」は、モネ、ルノワール、ゴッホ、ドガなどが、戸外で光と陰を描いた絵画技法は画期的でした。
当時のフランスは第二帝政時代、画家達は風景だけでなく、社交界やサロンの貴婦人達を、印象派らしいタッチで描きました。
絵にはコルセットで締められた胴着に、ボリュームのあるスカートや ” バッスル “と呼ばれる後が膨らんだスカートを組み合わせた華やかなモードが如実に描かれています。今回はそれらの絵から「 印象派のデコルテ 」をご紹介致します。

まずは下のオペラ座の桟敷の貴婦人の絵から、首もとに注目して下さい。
ポワール型の見事な大きさのバロック天然真珠が首もとに揺れ、真珠の上にはダイヤモンドの飾り細工があり、黒のリボンで身に着けています。

マリー・カザット 1878年 ” 桟敷にて “ ボストン絵画美術館蔵

水色のドレスに、デコルテへはこの真珠のみ、絢爛豪華なオペラ座で、かえって際立つシンプルさは、真珠のジュエリーの素晴らしさをより引き立てています。
洗練されたフランス的な感覚は、現代にも通じる装いですね。
次には、ナチュラリストの女性像です。

エドワール・マネ 1866年 ” 貴婦人と鸚鵡 “ ニューヨーク メトロポリタン美術館蔵

この儚げな若い婦人は、ゆったりとしたバラ色を着ています。
これは肖像画というよりも、 「 五感 」を表す絵として描かれました。
描かれたアレゴリーは、下にあるオレンジー味覚、首から下げた片眼鏡ー視覚、菫のブーケー嗅覚、画面全体を占めるドレスの質感または触れようとする婦人の手ー触覚、オウムー聴覚です。


ジャポニズムを思わせるモードに、唯一のジュエリーは首もとに、黒のリボンで黄金のメダイヨンを下げています。
ロケット型のメダイヨンは思い出の品を入れるもので、いにしえから非常にプラベートなジュエリーとして身につけられ、まさに「五感」の絵にふさわしいジュエリーですね。
マネは黒のリボンに引き締め役を担わせ、画面全体に使うには、大変難しいバラ色を見事にまとめ上げています。
続いては、黄色いドレスの貴婦人像です。

アルフレッド・スティーブン 1867年 ” 舞踏会から戻って “ パリ オルセー美術館

舞踏会から戻って来たばかり、化粧部屋でのほっとした表情は、印象派らしい内面を描いた絵です。
それまで肖像画と言えば、正装し固まった表情のものでしたから、このような絵は画期的でした。
この貴婦人のネックレスは黒のリボンに7つの真珠を着けたもの、このようなバロック真珠は当時のジュエリーの様式で、金の装飾がリボンにセットできるように作られているものです。


髪や袖にも黒のリボン飾りを付け、黄色と黒で統一した装いに、真珠やダイヤモンドの白いジュエリーが映えますね。
大きめのブローチにイヤリング、ブレスレットと揃えた正統派のドレスアップです。
さて、数ある印象派の絵から、リボンを使ったジュエリーの装いをご紹介いたしましたが、当時の男性はどんな風だったのでしょうか?

ジェイムズ・ティソット 1868年 ” クラブ “ パリ オルセー美術館

この絵はパリ、ロワイヤル通りのクラブでくつろぐ紳士達、いずれ19世紀のダンディも このコラムでご紹介して行きたいと思います。

◁ n.7 フルール・ド・リス I   n.5 ミニアチュール II ▷

ページの先頭へ