アンティークジュエリー物語n.81
愛はとこしえ
アモルとプシュケ

美術品がお好きな方なら、蝶の羽のある女性と翼を持つ男性のモティーフを、見られたことがあるのではないでしょうか。

アンティークジュエリーにも、カメオやインタリオ、そしてエマイユ(七宝)やミニアチュールに見られ、そのモティーフのもとは、紀元前にさかのぼります。
それは、男性は「アモル」、女性は「プシュケ」が登場する神話にもとづいたものでした。

その神話とは…

古代ギリシャ神話によると、とある国に美しい王女3姉妹がおり、特に末娘の美しさは神の国までとどくほどでした。
末娘の名はプシュケ。
人間界の王女の美しさを妬んだ美の女神アフロディテは、息子アモルに愛の矢を使い、プシュケを醜い怪物と結婚させるよう命じます。

(アフロディテにプシュケの許しを乞うアモル ジョルジュ・ルジェール 1827年 アラス美術館蔵)

しかしアモルはプシュケに見惚れ、自分を矢で刺してしまいます。
その矢はなんと、最初に見たものを愛する矢だったのです。

アモルは神であることを隠して結婚し、姿を見てはいけないと伝え、夜だけプシュケと逢瀬します。
しかしプシュケは愛する人を一目見たいという気持ちから、アモルが眠っている間に、蝋燭の光で見てしまいました。

(アモルの接吻で蘇るプシュケ アントニオ・カノヴァ 1787-1793)

愛する人が神であったことに驚いたプシュケは、蝋をアモルの肩に垂らしてしまい、アモルは目覚め、約束を破ったプシュケに信頼を失い離れてしまいます。
アモルを失ったプシュケは悲観にくれ、アモルを探す旅に出て、神の国で様々な試練を受けます。

(プシュケの壺 アモルの接吻で蘇るプシュケ部分)

至高の愛をアモルへ捧げるプシュケの姿に神々の王ゼウスは感銘を受け、プシュケに不老不死の飲み物と、魂の象徴の蝶の羽根を与えます。
そしてプシュケはアモルに再会し、永遠の愛を成就するという神話です。

(プシュケの石棺 大理石浮彫り 古代ローマ時代 2世紀末- 3世紀初期 アルル古代博物館蔵)

時を超えて

ヨーロッパでは、この神話は古代から現代まで、時代を問わず好まれています。

(アモルとプシュケ 古代ローマ時代のモザイク コルドバ遺跡 )

ギリシャ哲学において、プシュケは「魂」、アモルは「愛」のシンボルとされ、「プシュケとアモル」のモティーフは、魂と愛の両方を備えた「真実の愛」を意味しています。

プシュケが持つ蝶の羽は魂の、壺は永遠の命のシンボルです。
アンティークジュエリーのモティーフに、蝶の羽をつけ壺を持った女性がいたら、それはプシュケなのです。

(ベルテル・トルバルセン 1806年 源泉:古代ギリシャ-古代ローマ時代作品)

また、アモルは青年や少年の姿で表すことが多いのですが、それは、古代ギリシャ時代は青年像で、古代ローマ時代には少年像で表現されたという歴史がありました。
以降は、それぞれの時代の流行や、芸術家やその注文主の考え方によって、変わります。

(アモルの最初のキスを受けるプシュケ フランソワ・ジェラール 1789年 ルーヴル美術館蔵)

愛はとこしえ

この「アモルとプシュケ」の神話は、「愛と魂の出会い」をシンボルとして、神と人間の姿で表したものです。

それは、いわゆる恋愛の愛だけでなく、だれもが求める慈しみや優しさに溢れた、とこしえの愛でした。
だからこそ、古代から数千年にわたり、人々の心を捉えてきたモティーフなのですね。

(2世紀 古代ローマ時代 ローマ オスティア・アンティカ出土)

最後に、美術品にあるアモルとプシュケは決して視線を合わせていません。
それは、愛は見えるもの(肉体)ではなく魂で感じるもの(精神)、というギリシャ哲学の考えを表しています。

n.80 つぎ当ての英国王  

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