アンティークジュエリー物語n.82
古代の装身具 1
世界最古の

フランス語でビジュー、英語でジュエリーと呼ぶ装身具、
世界の古墳や墳墓の発掘品には、たくさんの装身具が見られます。
そのデザインや仕事は興味深く、いったい誰が着けたのか、想像は時空を超えて広がりますね。

装身具はいつ?
どこで?
どうして?
作られるようになったのでしょうか。
この「古代の装身具」のコラムでは、数回にわたってその歴史の一端をご紹介いたします。

アンティークジュエリー・コラム 古代の装身具 1 世界最古の ルーヴルアンティーク アンティークジュエリー&オブジェ

◆・◇・◆・◇・◆・◇・◆・◇・◆

1回目は、人類の曙(あけぼの)の時代へ、
世界最古の装身具(以降ジュエリーと記します。)とは、一体どんなものだったのでしょうか。

ちなみに考古学は日々アップデートされますが、2025年時点で最古のジュエリー、
それは北アフリカのモロッコ西方の、エッサウィラ湾岸の洞窟で見つかった14万2千年前の「32個の貝殻」でした。

アンティークジュエリー・コラム 古代の装身具 1 世界最古の ルーヴルアンティーク アンティークジュエリー&オブジェ
(※ モロッコ国立考古学遺産研究所蔵)

時は旧石器時代、私達に直につながる祖先が現れ、火を使い魚介類を調理し、石器を使っていた時代です。
貝殻は、「人の手」で穴を開け、磨き、いくつかは酸化鉄の顔料で赤く染色してあり、ネックレスやブレスレット、ベルトなどに使ったか、衣服に留め付けたと考えられています。

では、14万2千年前に、なぜ、誰が着けていたのでしょうか?

アンティークジュエリー・コラム 古代の装身具1 世界最古の ルーヴルアンティーク アンティークジュエリー&オブジェ

それはまず、社会階層や文化的アイデンティティを示すためでした。

人類が集団で洞窟で暮らしたこの頃は、明日は生きているかどうかわからない時代です。
それぞれの仕事を分担し、族長を決め、皆の生命を守ることが日々の重要事項でした。
そんな集団の族長がジュエリーを着けていました。

つまり、トップに立つ人のシンボルだったというわけです。
またそれだけではなく、「お守り」の意味もありました。

それは、着けている族長だけが「お守り」されるのではなく、「族長が守護の対象になる=族長の下にいる集団も守られる」という図が成り立っていました。
外敵との交渉時には、ジュエリーを差し出すことで話し合い、戦いを避けるというふうに、集団を守ることに使われたのです。

このような命を守る行為がのちの、「アミュレット - お守りのジュエリー」の始まりと言えるでしょう。

続いて、貝殻の次に古いものはなんだったのでしょうか。

それは、現在のクロアチア近辺で発掘された13万年前の「8つの鷲の爪」でした。

アンティークジュエリー・コラム 鷹の爪 古代の装身具1 世界最古の ルーヴルアンティーク アンティークジュエリー&オブジェ
(※ クロアチア自然史博物館蔵)

13万年前は、今はもう絶滅したネアンデルタール人の時代です。
ネアンデルタール人は、アジアとロシア、インドやトルコ、ヨーロッパを含むユーラシア大陸に住み、現代人になる過程の人類です。

長らく野蛮な原始人のイメージがあり、ネアンデルタールみたいな…などと言って、馬鹿にされていたのですが、今の研究では、埋葬や衣食住が行き届き、繊細な感覚を持っていたことがわかっています。
火を使い調理をし、住居の洞窟をととのえ、食べ物も植物から動物まで多種多様でした。

アンティークジュエリー・コラム 鷹の爪 古代の装身具1 世界最古の ルーヴルアンティーク アンティークジュエリー&オブジェ

「8つの鷲の爪」は、カットし彫りを入れ、槌打ちし、磨き、穴を開けるという「人の手」による加工が見られます。

鷲の爪は、人間の中指ほどのサイズで、カーヴがあり硬いものです。
加工した爪は、植物繊維や動物の腱で作った紐でつなげるか、固定していたと見られ、貝殻と同じくシンボリックな役割がありました。

ネアンデルタール人が、鷲の死骸を集めていたことはわかっています。
彼らにとって鷲は憧れであり、「空の王者」という神的な存在だったのではないか、と研究者は話しています。

こんなふうに貝殻や鷲は、実に古くから、人類が権力や美、憧憬のシンボルと認識してきたジュエリー・モティーフでした。

アンティークジュエリー・コラム 古代の装身具 1 世界最古の ルーヴルアンティーク アンティークジュエリー&オブジェ

当時はまだ「衣服」は無いか、獣の皮を巻きつける程度でしたが、すでにジュエリーを着けていました。
このことからジュエリーは、他の芸術より先立ち、人類の歴史に現れ、なくてはならないものだったことがわかります。

人は、水と光、色彩に惹かれます。
特に水と光は、生命体に絶対に必要なものです。

アンティークジュエリー・コラム 古代の装身具 1 世界最古の ルーヴルアンティーク アンティークジュエリー&オブジェ
ゆえに、輝くものや、光が当たり見えてくる綺麗な色彩に心惹かれるのは、今生きているという証でもあります。
古代ではそれが、海の波や湖面、太陽や月、星の輝き、植物や動物でした。
そこからアニミズムという自然崇拝が生まれ、その力を取り入れ、守護を祈るようになります。

アンティークジュエリー・コラム 古代の装身具 1 世界最古の ルーヴルアンティーク アンティークジュエリー&オブジェ
貝殻や鷲の爪といった自然由来の「もの」を加工し、美しくし、生命力と守護のシンボルとして身に着けたことが、いずれ後世のジュエリーにつながっていくのは自然なことですし、それを創ったのは人類です。

アンティークジュエリー・コラム 古代の装身具 1 世界最古の ルーヴルアンティーク アンティークジュエリー&オブジェ

「貝殻」と「鷹の爪」の時代経て、
人類は村を、街を、国を作り、耕作し、世界と流通していきます。
そしてメソポタミア、エジプト、インダス、黄河、という四大文明を作る頃には、宝石や貴金属がジュエリーに加わり、より輝きを増していきます。

アンティークジュエリー・コラム 古代の装身具 1 世界最古の ルーヴルアンティーク アンティークジュエリー&オブジェ

人類の進化とともに、ジュエリーはどんな風に変わっていくのでしょうか、そしてどんな発見があったのでしょうか。

民族や文化に違いから、多種多様なジュエリーが生まれました。
その変化や躍進は、古代の装身具 2以降であらためてご紹介していきます。

n.81 アモルとプシュケ - 愛はとこしえ  ▷

◁ 次回の更新はニュースレターにてご案内いたします。ご登録はこちらからどうぞ。

ページの先頭へ