アンティークジュエリー物語n.57
マテリアルの手帖 N.1

古今東西、ジュエリーのマテリアルといえば、主役として、土台として、金やプラチナ、銀といった貴金属に宝石や真珠など、たくさんの種類があります。どれも特有の性質をもち、数千年前から人類の身近にありました。
この「マテリアルの手帖」では、アンティークジュエリーに欠かせない素材についてご紹介してまいります。

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さて今回は、マテリアルの中でも最も身近な「金」についてです。

花のガーランドと杯 ブリューゲル作 1625年 ブリュッセル王立博物館蔵

古来からジュエリーの代表的な素材といえば金、空気に触れても酸化しにくく加工技術も発達しています。

例えば古代の遺跡から発掘される金は、たとえ土や水に埋まっていたとしても、数千年を経たとは思えないほど、黄金そのままに輝いています。
1922年、古代エジプトのツタンカーメンの墓を発見した考古学者ハワード・カーターは、壁から室内を見たときの様子を、こんな風に書き残しています。

「始めは何も見えななかった・・・でもだんだんと目が慣れてきて、中が見えてきたのだ。何か輝いている、光が見える・・・動物、像、黄金・全体が煌めいている。」

ツタンカーメンの黄金マスクと副葬品

墓の壁は金色で、マスクや棺、装飾品、玉座や戦車など5000点以上の副葬品が発見されました。
中でも黄金のマスクや棺は、3300年以上前とは思えないほど輝いていました。
ジュエリーで使う金属は日本語では「貴金属」と言われますが、フランスでも「マテリアル・プレシューズ 〜貴重な素材」と呼ばれます。

代表的なのは金、銀、プラチナですが、どれもジュエリーがお好きな方には馴染み深い素材ですね。
中でも金は、古来から人の暮らしの中で最も重要視され、礼拝用や貴重品として扱われました。
また中世からルネサンス時代には盛んに「錬金術」が研究されたように、人間には作り出せない「夢」の素材です。

ルネサンス時代の錬金術師

金は土の中から採取されます。
産出地で有名なのは、紀元前にはエジプト周辺と言われており、コロンブスの大陸発見以降の16世紀からは中南米、19世紀末からは南アフリカ、現在では中国やアメリカ、オーストラリアやロシアでも産出しています。
金は地球が与える資源の一つ、つまり天然の贈り物なのですね。
しかも産出には限りがあり、いつか採れなくなるかもしれないものなのです。

石に含まれる金

さて、金100%は「純金」と言われますが、マテリアル(素材/原料)の世界では純度のことを「品位」と呼びます。
純度が高いほど高品位で、含まれている金の割合によって品格が決まり、24金は99.9%以上で最も高品位、22金は91~92%、18金は75%・・・と続きます。

金以外に含まれる他の金属は「割り金」と呼ばれ、銅、銀などが入っています。
割り金により硬度が上がったり弾力がついたり、イエロー、ピンク、グリーンなどと色を変えることができ、用途に合わせ数種を配合します。

古代エジプトの金細工師 フレスコ画 紀元前14~16世紀頃

簡単に言いますと、以上のようにしてジュエリー用の金が作られますが、特にアンティークジュエリーに見られる王侯時代の数百年前のものや、一点ものやオーダー品、サインピース、古代の品などは、デザインや色によって割り金の量や素材は百選以上、一概にこの素材はこれ、と言えないくらいバリエーションに富んでいます。
このように貴金属の中の金だけでもバリエーションは多く、それも今には無いジュエリーを作っている理由の一つです。

プリンス・エルキュール・フランソワ,アランソン公爵 1572年 ワシントンナショナルギャラリー蔵 〜金細工にエマイユと真珠で飾ったネックレスと帽子飾り

ジュエリー制作では18金以下が主で、様々な技法を使いますが、特にアンティークジュエリーでは、現在ではもう見られない技術が施してあるのがご承知のとおりです。
当時の金細工技法には、今にはもう、伝えられなかったものや、宝飾師のクオリティ、時間のかけ方などにより、すでに不可能なものも多くあります。

金の加工技術には、叩いて表面効果を出す槌打ち技法、熱での溶接、艶出しの磨き上げ、その逆のマット仕上げ(艶無し)、彫金による模様付け、陰刻や陽刻、型に流し込む鋳造によりある程度の形を作り、その上から彫金師が彫りを施し、表面仕上げをして形をより際立たせ美しく仕上げる、型に沿わせつつ圧力を加えて形作る、などがあります。

黄金のインタリオ 古代ローマ時代 3〜4世紀

また、金はいつ頃から使い始められたのでしょう?
現在の研究では、紀元前3000年頃からと考えられています。
今から約5000年前になりますね。
例えば日本には中学校の教科書に出てくるくらい有名な紀元前の金のオブジェがあります。それは、福岡県で発見された「漢委奴国王印」(福岡市博物館蔵)です。
この印は、測定では約22金で紀元前1~2世紀のものとされており、漢字が彫られ印台には蛇が彫刻してあります。

金はその色と輝きに加え、触れると温かみを感じる稀有な金属で、生命に必要な太陽光の色に似ていることから、古代から生命の源として崇められ、貴重品とされてきたのもうなづけます。

受胎告知 シモーネ・マルティーニ作 1333年 ウフィツィ美術館蔵  〜背景を黄金に塗り、金細工のように土台の板を彫り込んだ装飾をつけたシエナ派の絵画

長い歴史の中で、金は装飾品となり、加工され、使われ、飾られ・・・姿を変えながらいつも人とともにあります。
当店でご紹介のアンティークジュエリーやオブジェにもたくさんの金が使ってあり、それも土の中から採取した原料を精錬し、丹念に宝飾師が形にし、人々に受け継がれ、愛でられてきました。

シャルル・ルイとロベール・ド・バヴィエール ヴァン・ダイク作 1645年 ルーブル美術館蔵 〜甲冑の上に金鎖と勲章、ベルトを着けている。

ジュエリーやオブジェの金は、その輝きと色によって、身につける楽しみだけでなく人を美しく見せますね。

それは技術によって美しい形になっているというだけでなく、真珠や珊瑚、宝石とともに、数百億年の歴史ある地球から採れる天然物であることも、人を惹きつける理由ではないでしょうか。
いにしえから人々を魅了してやまない金は、今も世界を廻っています。

画像のジュエリーはカタログでご覧いただけます、詳細はお問い合わせ下さい。

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