アンティークジュエリー物語n.79
普段着の
アンティークジュエリー
尊敬と憧れをこめて「グラン・ダム - 偉大な婦人」と呼ばれた、
フランスで最もシックでエレガントと言われた女性をご紹介いたします。
その名は「マダム・グレ」、
今も香水が販売されていますので、ご存知かもしれません。
20世紀に活躍したフランスのファッションデザイナーです。
本名はジェルメーヌ=エミリ・クレブ。
1903年に生まれ、彫刻家を目指しましたが、社会的に、また家庭の事情で芸術家にならず、ファッションの世界へ入りました。
マダム・グレの服は、ギリシャ彫刻を思わせるドレープドレスが有名で、顧客にはウィンザー公爵夫人、マルレーネ・デードリッヒ、ジャクリーン・ケネディなど、世界のセレブリティが名を連ね、晩年はフランスのオートクチュール会長をつとめ、1993年に逝去しました。
他のデザイナーと違うところ
それは自分のデザインした服を着なかったことです。
同時代のデザイナーのココ・シャネルやマダム・ランバンは、自身が広告塔となって、全身を自分のファッションで包んでいました。
しかしマダム・グレは、決して自分のメゾンの服を着ませんでした。
ではなにを着ていたのでしょうか。
それは、アトリエでお針子さんにつくらせた、ごくシンプルな服で、色はほとんどがモノトーンでした。
さて、どうして自分のデザインした服を着なかったのでしょうか?
その理由は…
150cmという身長でした。
フランス女性の平均は163cmで、ヨーロッパの中では華奢な女性が多い国ですが、なかでもマダム・グレは特に小柄でした。
そのためモデルをチェックする時は、いつも足台を用意していました。
「小さきものは、美しきかな。」
それを体現したのがマダム・グレだったといえるでしょう。
そういえば、19世紀英国のヴィクトリア女王は152cm、今のエリザベス女王は162cmだそうです。
アンティークジュエリーの装い
また、若い時からアンティークジュエリーを愛したことでも知られており、晩年までそのスタイルは変わりませんでした。
下は、19世紀の18金製の透かし細工のクロスペンダントで、デザイナーを始めた頃から身につけています。
このようなツインセットのニットスタイルは、マダム・グレの定番で、いつもペンダントやネックレス、ブレスレットを合わせています。
右下は30代の頃、
シャツ+スカートスタイルにも愛用のクロスのペンダントを着け、パリ、ヴァンドーム広場でのアトリエでのスナップです。
左下は70代の頃、
存在感のあるリングに、アンティークチェーンにたくさんのペンダントトップをつけて、スカーフをピンブローチで留めています。
チェーンにたくさんのトップをつけるのは、フランスでお守りを意味する「グリグリ」と言いますが、着け慣れている様子が、さりげないジュエリーの重ね方から感じられます。
普段にはシンプルな装いとターバンにアンティークジュエリー、
というのがマダム・グレの定番でしたが、華やかな場には豪華なネックレスも着けていました。
こんな着け方は、ヨーロッパの女性に比べると、華奢で小柄な日本人女性も参考にできそうですね。
こちらはニットに、ネックレスやブレスレットで。
真珠には装飾クラスプがついていて華やかですが、普段着に着けているのが大人の女性らしくて素敵ですね。
シンプル
50年以上前とは思えないほどモダンな装い、シャツにスカートは永遠の定番と言えそうです。
画像では見えにくいのですが、実はマダム・グレはカフスボタンのコレクターで、貴金属や宝石、エマイユなどの凝ったアンティークのカフスボタンを愛用していました。
そのために同じシャツを何枚も作ったそうです。
好きなものは似合うもの。
ブローチ&ペンダントを、ニットやブラウスへ。
愛用の大きめのリングは重ね使いで。
小柄な方は小さなものを選びがちですが、実は華奢なジュエリーも、大きめのジュエリーも、どちらもとても素敵なのです。
たかが装い、されど装い…
フランスで「ソーヴル - 控えめ」で「最もシック」といわれたマダム・グレ。
当店にもマダム・グレのようにアンティークジュエリーを装う素敵な方々にお出ましいただいており、いつかご紹介できればと思っています。