アンティークジュエリー物語n.30
フランスの豪奢
ヴェルサイユ宮殿 II

前回のコラム、n.29 ヴェルサイユ宮殿 I ー 狩りの館から宮殿へ ー 、から続いて18世紀から現代までの宮殿をご紹介致します。

17世紀から18世紀、ルイ14世と15世は、ヴェルサイユ宮殿本体だけではなく、周囲にさまざまな新しい建築や、庭園や施設を加えました。

太陽王アポロンと馬を象った彫刻作品 / 乗馬のルイ14世王 1650年 共にヴェルサイユ宮殿蔵

狩猟と馬は王のシンボル、1679年から1683年にかけ、王は最も美しい馬を集め、専用の厩舎をつくりました。
その数700頭、1500人の世話係が常にいました。
想像することもできないくらい、膨大な数と広大な厩舎です。
そして王の馬は「 白馬 」、白馬だけでも100頭をくだらなかったそうです。

そのため、おとぎ話の白馬の王子というイメージは、この時から確固とした王のイメージになったそうです。
また各王の王妃のための部屋も改装を重ね、時代に応じて王妃好みに飾った宮殿を作りました。


ここはルイ14世の妃「マリー・テレーズの応接間」、イタリアのルネサンス趣味で仕上げられています。
そして、大変力を注いだのは「 庭園 」でした。

オランジェリー(温室)のオレンジの木 / ヴェルサイユ・冬の庭園

” オランジェリー ” と呼ばれる温室をつくり、季節に関係なく常に緑で溢れ、南国から取り寄せたオレンジやレモンの木が茂っていました。
” オランジェリー ” とは「オレンジの温室」を言います。
庭園はフランス式に、構築的なデザインに庭師が刈り込み、夏冬関係なく、その模様を楽しみました。

このような巨大かつ壮麗に出来上がった宮殿へ、18世紀、1770年にマリー・アントワネットがオーストリアからフランス王太子ルイのもとへ嫁いできました。

王太子と王太子妃時代のマリーアントワネット

最初こそオーストリアの田舎者、といわれた王太子妃でしたが、フランス式に慣れ、洗練されていくと共に、「 プチ・トリアノン宮 」や「 愛のモニュメントと庭園 」など王妃好みの建築をヴェルサイユ宮へ作りました。
またルイ14世が作らせたこのような劇場もあり、ここでは王太子ルイとマリー・アントワネット王太子妃の結婚の祝賀も行われましたし、常にオペラやバレエが行われました。

ヴェルサイユ宮殿内の劇場

ルネサンス時代のイタリアで始まったバロと呼ばれた踊りがフランスへ伝わり、現代の古典バレエの基礎が、このヴェルサイユ宮の劇場から始まり、確立されました。

18世紀古典バレエの創始者マリー・カマルゴ嬢 / 王のロージュから見た劇場内

ルイ14世はバレエが大変好きで、子供の頃から習い、王自らが劇場で踊る事もありました。
バレエ好きが高じて「 王立バレエアカデミー 」まで創立し、現在のフランスのオペラ座バレエ団の祖となっています。

それまでのルイ14世、15世の二人の王の時代を経て、18世紀後期にはすっかり成熟したヴェルサイユ宮では、マリー・アントワネット王妃が贅の限りを尽くしました。

乗馬のマリー・アントワネット

日本の漆器がフランスへ運ばれ、宮廷では最も洗練された美として賞賛されていました。
漆器はそのままで、あるいはフランス式のブロンズ金鍍金と組み合わせたオブジェとして、あるいは家具に組み込んで、ヴェルサイユ宮を飾りました。

マリー・アントワネット王妃のコレクションであった日本の漆器2品

建物や庭園だけでなく、今もそのまま残る宮殿のあらゆるつくりは、フランスの17世紀から18世紀の様式を見せてくれます。
シャンデリアや壁、天井の装飾だけでなく、階段、床、柱や窓、階段や手すりといった細かなディティールに至るまで、当時の建築家はもとより、一つ一つを丹念に作り上げた、今はもう、名も知らぬ職人達の息吹を伝えています。

もし宮殿を訪れることがあれば、是非、そんな職人の一生をかけた仕事をご覧になってみて下さい。
1枚毎に手仕事で切りそろえ磨いた大理石、それをぴったりと見事に合わせた床の仕上がり、鉄職人の作った手すりや、木の壁を見事に彫り上げた木工彫刻師、彼らの手がこの華麗な宮殿は仕上げました。

ヴェルサイユ宮は、王の場所であるだけではなく、300年以上前の名もなき職人がこつこつと作りあげ、私達に残してくれた遺産でもあります。

1953年6月17日 ヴェルサイユ宮殿オランジェリーでのパーティにて ~モデルのステラ嬢とキャプシーヌ嬢

現在は観光が中心となっているヴェルサイユ宮ですが、1960年代頃までは、貴族制度が無くなったあとでも、旧貴族の家系や、有名人や芸能関係者を交えて、このような舞踏会が開かれていました。
現在は世界遺産として、またフランス大統領が外国の賓客のために、また美しい建築を生かしモードの撮影に使われています。

ルイ14世王が建てた時は、まさか王制が廃止され、共和国大統領が使うとは、思いもよらなかったことでしょう。
しかし今もヴェルサイユ宮殿は、フランス文化の大きな部分であり続けています。

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